Raspberry Piで航空機からの位置情報信号ADS-Bを受信してみた

最近ニュースで航空機の捜索が話題になっていましたが、その中でADS-Bという単語が出てきました。

ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)は、航空機から1090MHzの周波数で発信されている、識別子、GPSによる現在位置、高度、対気速度などを含む信号で、この情報を地上や航空機間で利用することでより安全に航空機を運用できるようにするもので、近年これに対応したトランスポンダを搭載する航空機が増えてきているそうです。1030MHzで各航空機に問い合わせを送り、各航空機が1090MHzで応答するというプロトコルになっています。
参考: 空中衝突防止装置 - Wikipedia


Flightradar24というサイトを見ると、航空機の位置情報をリアルタイムで見ることができますが、これはユーザの受信機が拾ったADB-Sの情報を収集して配信することで、世界中の航空機の位置情報をカバーする仕組みになっています(ADB-Sに対応しない航空機もあるため、FAAの情報(5分遅れ)なども利用して補完しています)。


さて、このADS-Bですが、ソフトウェアラジオ(SDR: Software Defined Radio)用のUSBスティックを使うと非常に安価に受信することができます。
R820Tというチップを使ったUSBドングルが特に簡単に利用できるようです。何とたったの999円で手に入るとか。Amazonでも2000円くらいから売られていました。

DVB-T+DAB+FM USB チューナー  RTL2832U+R820T

DVB-T+DAB+FM USB チューナー RTL2832U+R820T


これをRaspberry Piに接続して、ADS-Bの受信(ついでにFMラジオの再生も)にトライしてみました。

今回使用したのは米国Amazon.comで購入したNoElecのR820T USBドングルです。
Raspberry PiでのADS-B受信は、下記のガイドが参考になります。
ADS-B Sniffing with the Raspberry Pi and the NooElec 820T Dongle | the electric stranger
なお、利用方法はR820Tを使用したドングルであればほぼ変わらないはずです。
WindowsMacで利用する方法も検索するといろいろと出てきます。


Raspberry Pi上のソフトウェアのセットアップ手順は下記の通り。

2017.2.1 追記

現在は、コマンド1つで全ての必要なソフトウェアの導入が可能になっています。

sudo bash -c "$(wget -O - http://repo.feed.flightradar24.com/install_fr24_rpi.sh)"

あとは質問に答えるだけ。詳しくは以下のスレッドを見てください。
http://forum.flightradar24.com/threads/8908-New-Flightradar24-feeding-software-for-Raspberry-Pie?p=66479#post66479


以下は古い情報です。


rtl-sdrのセットアップ

まず、SDR用のrtl-sdrというパッケージをセットアップします。

参考: Rtl_fm Guide: Updates for rtl_fm overhaul, Raspberry PiとRTL2832Uドングルを受信サーバとして使ってみる - Computer Radio RF Tech

1. 必要なパッケージをインストー

sudo apt-get update
sudo apt-get install git
sudo apt-get install cmake
sudo apt-get install libusb-1.0-0.dev
sudo apt-get install build-essential
sudo apt-get install pkg-config

2. rtl-sdrのソースの取得

git clone git://git.osmocom.org/rtl-sdr.git

3. rtl-sdrをビルド

cd rtl-sdr
mkdir build
cd build
cmake ..
make
sudo make install
sudo ldconfig

4. rtl-sdrのテスト
USBスティックの機種によって、rtl2830やrtl2832、dvb_usb_rtl28xxuといったカーネルドライバがロードされている場合、rmmodする必要があります。

sudo rmmod rtl2830
sudo rmmod rtl2832
sudo rmmod dvb_usb_rtl28xxu

そして、

sudo rtl_test

してみて、「Found 1 device(s): デバイス名 」と表示されればOK。


次に、試しにFMラジオを再生してみます。例えば106.7MHzにチューニングする場合、

sudo src/rtl_fm -M fm -f 106.7M -s 170k -A fast -r 44100 -l 0 -E deemp | sudo aplay -t raw -r 44100 -c 1 -f S16_LE

とします。これで、ステレオミニジャックからラジオの音声が出力されます。
音量の調整は、sudo alsamixerコマンドで行います。あまりに低くなっていると音が出ないので注意。


Raspberry Pi上で rtl_tcp -a 0.0.0.0 を動かしておき、LinuxもしくはMacからgprxというソフトウェアで"rtl_tcp=:1234"に接続*1すると、リモートでラジオを聞いたりFFT波形を見たりできます。
詳しくはこちらが参考になります。MacでSDRするならgqrxがとても簡単 - Computer Radio RF Tech


gprxの接続設定の例。


gprxで1090MHz周辺を見てみたところ。真ん中のピークはフィルタによるノイズですが、右寄りに1090MHz (0.03MHz程の誤差がありますが…)のピークが見えますね。

ADS-Bの受信

様々なソフトがあるようですが、今回はLinuxでの実行がお手軽なdump1090を使います。

ADS-B dump1090
http://www.satsignal.eu/raspberry-pi/dump1090.html

git clone git://github.com/MalcolmRobb/dump1090.git
cd dump1090
make

実行するには、

./dump1090 --interactive --net

とします。コンソール上に下記のように受信されたADB-Sの情報が表示されます。

Hex     Mode  Sqwk  Flight   Alt    Spd  Hdg    Lat      Long   Sig  Msgs   Ti\
-------------------------------------------------------------------------------
a283fa  S                     2750                               24     8    1
a62f85  S                     6175             42.091  -71.138   20     6   53
aa435b  S                    22325                               21   160   31
a301f3  S     3417           25900                               19   517   11
86d668  S           JAL8      2200  153  019   42.248  -71.062   23   186   59
......

また、WebブラウザでRaspberry piIPアドレスの8080番ポートに接続すると、下記のように地図上に取得した情報をプロットしてくれます。

なお、下記フィード用等でサーバとして常駐させる場合は ./dump1090 --quiet --net とすれば画面表示を抑制して少し負荷が下げられるかと思います。

Flightradar24.comにデータをフィードする

また、専用のfeederソフトを使って取得したデータをFlightradar24.comに送信して共有することもできます。一定の条件を満たせば、無料でプレミアムアカウントの機能を利用することができます。
Linux単体でも送信自体は可能ですが、最初のアカウントのセットアップは現状Windows版のソフトからしかできないようです。手順は下記。

  1. Flightradar24.comのプレミアムアカウントにSign up(このとき料金を払う必要はありません)
  2. Flightradar24.com - Live flight tracker! からWindows用のfeederをダウンロードして実行
  3. Sign upボタンをクリックし、アカウントのメールアドレス、受信地の緯度経度(Google Map等で調べられます)、およびdump1090の30003ポートに接続できるようIPアドレスを設定
  4. しばらく待つと、2機以上の位置情報を受信して照合し、正しければkey(16桁の16進数)が付与される。
  5. Linux feeder software for Flightradar24 (Old software) からARM LE, statically linkedバージョンのfeederRaspberry Piにダウンロード(動的リンク版は途中でSEGVして動きませんでした)
  6. tar xf *.tgz でアーカイブを解凍し、渡されたkeyを指定してfeederを起動*2
% ./fr24feed_arm-le_241s --fr24key=0123456789abcdef --bs-ip=127.0.0.1 --bs-port=30003
[i]FR24Feed v241 - built on Feb 20 2014/09:54:09
[i]Downloading configuration...OK
[i]Parsing configuration...OK
...
[n]connected
[n]switching to UDP
[n]working
[i]Data feed time difference OK abs(12:49:20.430 - 12:49:20.396)=0
[n]pinging the server
[i]sent 5 planes in 1 packets
...


プレミアムアカウントを有効にして航空機をクリックすると、データを取得した人のコード(ID)を見ることができます。自分のコードが出てるのを見るとちょっと嬉しいですね。また、自分が送信したポイント数や、距離・方角の分布などもグラフィカルに見ることができます。

やはり付属のデジタルTV用アンテナ、かつ室内なので、方角も南側に偏ってるし距離も最大100nm(185.2km)程度といまいちですね…。

追記→ 1090MHz用のグランドプレーンアンテナを作ってみたところ、最大170nm程度に改善しました。

*1:サンプル数は増やすとチューニングが楽になりますがCPU負荷が上がりネットワーク帯域を多く消費します。デフォルトの1.5Mサンプルでは、3MB/s程度の転送と30%のCPUを程度消費します。250kサンプルだと500KB/s・2%程度になり、それでもFilterを適切な幅に設定すれば十分再生できます

*2:どうもこのfeederは10分に1度の割合でゾンビプロセス(bash )を発生させるようです。https://gist.github.com/NeoCat/9982700 にあるプログラムをかませて ignchld ./fr24feed_arm-le_241s ... と実行すればゾンビプロセスの発生を防げます(SIGCHLDを無視させている)。ただ、相変わらずpipeをopenしっぱなし(lsof -p で見ると分かります)なので、数日に1度くらい定期的にプロセスを殺して再起動するようにした方が良さそうです。